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悪徳商法を追及し 被害の未然防止と被害回復の指導をする「悪徳商法被害者対策委員会」・「堺 次夫事務所」です

2020年

2020年秋

「コロナ禍の中で、ジャパンライフ、詐欺罪で逮捕者14人」
 今年も自然災害は相次ぎ、今や異常気象下ではなく、恒常的気象下での自然災害となっているのが現実だが、今年は1月以来、これに新型コロナウィルス感染被害のコロナ禍が加わる、大異常な1年として人々に記憶される年になるのであろう。後世からも「あのコロナ年」として、何に付け歴史的1年に位置付けられる事は間違いない。

「悪徳商法」の世界についても同様に、今年は記念年になったと言える。
 2020年9月18日付各紙夕刊はトップ記事で、
『ジャパンライフ元会長ら逮捕 2100億円集金か』
『14人詐欺容疑』『オーナー商法 被害やまぬ闇』(見出しは朝日新聞)
 を伝える。警視庁等6都県警の合同捜査本部によるもので、J社は現在、破産手続き中だが、14人は元・会長の山口隆祥容疑者、長女の元・社長山口ひろみ容疑者が含まれる。
 以後、毎度の事ながら、マスコミは一斉に、このJ社の手口や歴史、政官との関係等々を報道し始めている。
 何せ、前身の『ジェッカーチェーン社』から数えると、45年間もマスコミを騒がせて来た経緯があり、書いても書いても書き切れぬぐらいの材料が存在する。
 問題商法というより、詐欺手段としての手口や経営者の詐欺的体質についても関係者はかねてより良く知っていた。
 2016年4月11日。参議院財政金融委員会で、山口隆祥容疑者について聞かれた麻生太郎副総理・財務大臣は次のような答弁をされた。「この人は結構有名人でしょう。まだ生きていたのかと思って・・。マルチ(商法)が始まった最初の頃から、もう出ていた・・・」
 知らぬは今回、被害に遭った約7千人の人々であった。

 今回、警視庁を筆頭に捜査当局の奮闘については、大変な作業であった事は想像に難くない。特に容疑が詐欺罪である事は、捜査当局の意地を感じさせる。
 当事者はこれまで、脱税での摘発が2回あるが、詐欺うんぬんが周囲から叫ばれながら、決して塀の内側には落ちなかった人物だったのである。
 元々は、昭和の詐欺事件として昭和時代の内に、カタを付けなければならぬ話であった。
 それが今、時代は令和。ここまでの時間を要するとは、私も監視、追及してきた側にあって、その点は内心、忸怩たるものがある。
マスコミ関係者もまた同様に考えるであろう。かつてを知っていればいるほど、詐欺会社がどうしてここまで生き延びたのか、なぜ被害が拡大したのか、もっと早期に何らかの対策が打てなかったのか、どこの時点で、どこがどういう手段を用いるべきだったのか。
 もちろん行政は対応が遅過ぎ、対策は甘過ぎたが、それだけではない。
 今後同様の被害を出さぬためにも、関係者は各自の立場で、検証し、結果を公表すべきであると考える。それだけの対象事件である。

「残る課題―集金資金の流れ解明と必要な法手当て」
 当面、まずは捜査当局に、J社が集金した2000億円余のカネがどのように流れたのかをまず解明して欲しい。
 当事者が口を開かぬ限り、隠し財産の存在を調べる事は難しいとされるが、それでもここは捜査当局にすがるしかない。
 J社が支払った、数千万円以上と言われる顧問料なども、何の目的、業務内容で支払われたものか、公序良俗に反する内容ではなかったのか。それも明らかにし、管財人と共に、少しでも多くの資産を取り戻し、被害者の被害回復に充当してもらいたい。
 そして、遅ればせながら、こうした手口そのものに対する法律の手当てがやはり必要だという事である。

 J社が、今回の集金で展開した販売預託商法(オーナー商法)を開始したのは2003年頃とされる。その時点で、豊田商事事件を契機に立法化された「特定商品等の預託等取引契約に関する法律(預託法)」は施行されていたが、法の対象を個別に指定する法体系になっていたため、法の発動が後追いになったほか、消費者庁の判断もまた遅れた。担当した職員(退職済)の問題もある。
 消費者庁はようやく2016年から1年間に4度に亘り、JL社に対し、行政処分を下すが、同社は2017年12月に事実上倒産、2018年3月に破産するが、稼ぎに稼ぎ終わった後と見えてしまう。

 世の中には商取引を装いながら、実は詐欺的手段を用いて、一般市民から、多額の金を簒奪する輩も存在する。
 こうした輩に対しては、もちろん刑法の詐欺罪が発動されれば、言う事はないが、詐欺罪の立件は、加害者の犯意を客観的に証明する事が要求され、「騙そうとは思わなかった。結果的に騙す形になった」と詐欺師が必ず唱える、この壁を崩す事が要求され、その立証は容易ではない。
 
ここに今、新たな商形態が生まれ、怪しいと思われても、わが国は自由主義経済国家であるから、営業自由の大原則があり、被害続出となっても、即、それを禁止するという話にならない。「中には良いものもあるのではないか」と。
 おまけに元々、彼らは法の穴を巧みに潜り抜ける「脱法行為」を編み出す事など、日常茶飯事で、かくして被害は拡大し、詐欺師が一時、時代の寵児として脚光を浴びる事さえある。
こうなると、捜査当局が何らかの手掛かりをつかんで、家宅捜索等強制捜査に
乗り出すことに慎重になる。
 捜査に入れば「警察がビジネスの邪魔をした!」と叫ぶのである。ぼつぼつ、行き詰まっていたとしたら、勿怪の幸いである。「警察が会社をつぶした!」と責任転嫁をして、計画倒産に持って行く。
 それがあるので、警察は民事不介入を建前に、中々、動けないし、動かない。
 かくして、詐欺師達は堂々と我が世の春を闊歩する。

 しかし、詐欺はどこまで行っても詐欺であり、「良い詐欺など存在しない」。
詐欺はあくまでも犯罪であるのだ。
 民事事件の裏側には必ず犯罪性が存在する。
 数多くの消費者トラブルが発生すれば、何かあると判断して、既存法の適用を考慮し、できないとなれば、新立法の制定、それには規制と禁止があるが、特に悪徳商法の場合、禁止法の制定で対処する事こそ王道と言わねばならない。
 
規制で治まるか、それとも禁止にすべきかの分岐点は、規制により、まともなビジネスとなるのかどうかだが、対象が詐欺であるならば、規制では効果がない。それは「まともな詐欺を目指せ!」」と言うようなもので、この点をしっかり見極める必要がある。

「消費者庁 預託商法原則禁止へ 時期通常国会に法案提出」
 このジャパンライフ問題と預託商法に関連して、消費者庁は庁内に「預託法等改正検討委員会(委員長・河上正二東京大名誉教授)」を設置して、検討を重ねていたが、この7月28日。販売預託商法について、原則禁止する方針を決定した。次期通常国会に法案を上程するという。
 販売預託商法というものの、消費者庁の調べでは、JL社以外で、同方式を取る同業他社は数社に過ぎず、それはJL社の分派とも聞く。そもそもこの方式はビジネスモデルとして、成り立つには困難ではないか。
 よって、これはマルチ商法と同様の「良いマルチ、悪いマルチ図式」ではないか。すなわち「良いマルチは無害なペスト、安全なコレラ」論である。
 私はこの預託商法原則禁止方針は大いに歓迎したい。

 かつて10年に一度のペースで、大型詐欺事件が発生した。今、それはスパンが短くなり、5年が3年になり、2年となり、そして年中行事のように詐欺事件が起きている。
 それだけ詐欺師にとって、日本社会は稼げる、しかも逃げられると踏んでいるのだろう。この逃げ得を許してはならない。
 
詐欺師の行く先は塀の内側しかない。他にどこを用意すべきと言うのだろうか。後を絶たぬ詐欺商法については刑事摘発に勝る啓発はなく、捜査当局には更に一層の奮闘をお願いしたい。そして当局が発動する法律が立法趣旨を果たせない時代環境になったりすれば、法の強化改正なり新立法の制定に取り組む事は当然である。
                                (2020年10月9日)